お客様の課題
美和ロック株式会社様は、鍵のメーカー様です。利便性のニーズが多様化、高度化した結果、オプションがどんどん増え、製品1シリーズにつき3万~4万の品名型式が存在しています。それぞれの製品のロジックが深く、収拾がつかない状況になっており、マスタの整備や見積りに多大な時間がかかっていたようです。
改善のポイント
細かな仕様がOrder CPQに登録されていることで、営業担当者が自ら正しい見積りを作ることができるようになりました。見積もりのために多数の資料をひっくり返したり、他部門に問い合わせることがなくなり、誤発注もなくなりました。マスタメンテナンスも大幅に楽になり、新シリーズの登録に1か月かかっていたのが、1日で済むようになりました。
インタビュー詳細
【概要】世界約50カ国で愛用される錠前の国内トップメーカー美和ロック株式会社は、2008年に、コンフィグレータ・エンジンOrder CPQを導入、本格稼働させた。システム導入の目的はどこにあったのか、それは現場にどんな変化をもたらしたのか。情報システム部の小菅且彦次長と、導入作業の中心となった新井優子氏に話をうかがった。
取材日:2015年10月
― 御社と仕事をさせていただいて、錠前、鍵というのが、想像以上に多様性のある世界であることを知りました。
鍵を差し込むシリンダー自体は、そんなに種類が多いわけではありません。ただ、例えばドアノブとの組み合わせであるとか、個々の扉の厚さへの対応だとか、あるいは戸建て住宅か、マンションか、はたまたビルのオフィスか、といった用途によって求められるものが違います。防犯性能はもとより、特に利便性のニーズが多様化、高度化し、それに合わせて製品をつくっているうちに、どんどん種類が増え、かつ機能も複雑化してきたわけです。 基本的には廃盤になる商品は少なく、事実、70年前に創業者が考案した錠前も、いまだに販売しています。
― 今、何種類くらいのラインアップになっているのでしょう?
当社の場合、製品の型式は、まずシリーズ名があって、次にハンドルの形、次に機能、そしてオプションという形で定められています。
機能というのは、例えば外側はシリンダーで内側はサムターンだとか、両方シリンダーだとかいう、鍵の働きのメインの部分についての差異です。オプションは、それに加えて、例えばシリンダーに鍵を差し込みやすいように“すり鉢状”に加工するなどの、様々な付加価値のことです。現在、シリーズ自体は430ほどあるのですが、そこにそうやって“後付け”されるオプションがどんどん増えて、1シリーズにつき3万~4万の品名型式が存在しています。
― あらためて、コンフィグレータ(CPQ)導入前にどんな問題を抱えていたのか、聞かせてください。
70年前の製品も販売しているという話をしましたが、とにかく製品の歴史が古いのです。当時の仕様書、設計図はもちろん手書きです。そこに、ユーザーニーズに即した改良などに伴い、今言った“後付け”がどんどん積み重なっていました。
オーダーに対応するために、それらの仕様情報をマスタデータとしてコンピュータに登録していったわけですが、マスターだけでは、仕様の確定ができません。「この製品は、この条件で使えます」「使えません」といった情報を、ロジックで覚え込ませるしかありませんでした。ところが、その製品ごとのロジックが、とにかく“深く”て複雑で、正直、収拾がつかない状況になっていました。紙と違ってコンピュータの中は目に見えませんから、どれだけロジックが膨らんでいるのかさえも分かりません。
― その状態で、最も困ることは?
データのメンテナンスです。マスターをメンテナンスしただけではダメで、ロジックも直さなければならないのですが、多くの場合、そのロジックがどこにあるのか、そもそもプログラムに入っているのか、一目では分かりません。
「受注の入力をしても通らない」と言われることもよくあって、そうなると、マスター登録をした私(新井氏、以下同)が、「どうしてだろう?」とまず悩む。たいてい一人で解決するのは困難で、システムの担当者と話をしながら、プログラムを探します。オーダーを受けた一つの製品を探し出すためだけに、複数の人間が1日がかり、という状況でした。
― 当社が初めてコンフィグレータ(CPQ)のご提案をさせていただいたのは、2005年でした。 小菅且彦氏
ひたすら「困った、困った」と頭を抱えながら、社内でシステムの改良を模索しつつ、でも抜本的に変えるのはおそらく不可能だろう、と考えていたタイミングで、「こんなソフトがある」とOrder CPQのお話を聞きました。今のカオスのような状況を「変えることができる」と力強く言っていただけたので、「すごい。それができたら夢のような話だ」というのが、率直な感想でしたね。
Order CPQの説明を聞いていて、「なるほど」と感じたのは、「このシステムは“足し算”でデータ管理を行います」というお話でした。通常のコンフィグレータ(CPQ)は、3つのシリーズに2つのオプションがある場合、3×2=6通りというふうに、条件が付け加わる度に“掛け算”になっていく。延々続けたら、「データ爆発」が起きます。それでは、“道具”を入れたところで、我々にとって抜本的な改善にはなりません。
しかし、このシステムは、例えば「このサイズより大きければ、こういう管理をすべし」というぐあいに、オプションを集合論をベースに記述することが可能になります。その結果、“掛け算”の世界からは解放され、集合論の“足し算”で済むようになる――というお話には、説得力がありました。
― 実際、数社のコンフィグレータ(CPQ)との比較もされたそうですが、構造計画研究所のOrder CPQに決められた理由は?
結果的に、当社の製品レパートリーの膨れ上がり方に対応できるのがこれしかなかった、ということですね。他社のシステムは、やはり管理すべきものが無限大に構成されてしまい、メンテナンスのしづらさから解放されるのは難しい、と感じました。
― とはいえ、本格稼働までには、相当なご苦労もあったようです。
当社の製品はみな歴史を重ねていて、仕様自体定かではないものが数多くあったため、導入を決定してからが大変でした。導入前にそれでも発注できていたのは、曲がりなりにもマスターとロジックが登録されていたからです。でも、それらを1からシステム内に構築し直そうとした時、そもそもロジックの基になっていた資料に不備があった。ですから、まずシリーズごとに関連する資料をかき集め、文章ばかりの仕様書や、“言葉で書かれている図面”なども含め、膨大な資料を1枚1枚紐解いていきました。そこまで整理ができて、やっと登録が可能になりました。
登録を始めると、今まで使っていたマスターがより深く理解できて楽しい、などと思ったのも束の間、イレギュラーなことが多すぎて作業が進まない、という大問題が発生しました。例えば「扉の厚さ」とか「色」とかいう要素に当てはまらない項目が大量に出てきたのです。
― どう対処したのでしょう?
この段階では、特に構造計画研究所の技術者の方にお世話になりました。一つひとつ具体的な課題をご相談し、基本的にはイレギュラーとされた項目に見合う“器”を新たに作ってもらうことで、対処していきました。文字通りの共同作業で、御社の担当の方は、私たちと同じくらい「美和の鍵」に詳しくなったはずです。
結局、こうした作業に2年近くかかりましたが、めでたく430シリーズをすべて登録し、2008年に販売部門での本格稼働に漕ぎつけることができました。
― 本格稼働後、どのような部分が変わりましたか?
情報システム部の仕事に関して言えば、作業は大幅に省力化され、そのぶんスピードアップが可能になりました。例えば新たなシリーズを発売する場合、従来は先ほど述べたような何万件もの型式を1人で入力していたため、登録完了まで軽く1カ月はかかっていました。しかし、新システム導入後は、条件式を入れるだけでいいので、登録は検証作業も入れて1日あれば十分になりました。それだけの時間で、受注可能な状態に持っていけるようになったわけです。
とにかく、ロジックなどで対応していた部分が、明確に目に見えるようになったことが大きい。ものすごく細かな条件もあるのですが、それらも含めて、全部見ながら制御できるのですから、こんなに便利なことはありません。
― 営業活動などの面では、いかがでしょうか?
営業サイドのメリットも、もちろんあります。今までと違って、細かな仕様が登録されていますから、営業が自ら仕様をチェックしながら、工場に発注することができるようになりました。誤発注などを防ぐのに、大いに役立っています。
また、お客さまから「この錠前で、この色とサイズは作れるのか?」といった問い合わせが営業にあった場合、かつてはあれこれの資料をひっくり返して調べ、それでも不明な時は、当部署に電話がかかってきました。わざわざこちらに連絡がくるような案件では、即答できることは少なくて、私自身、自分のメモなども見直しながら回答するのですが、それでもわからなければ「設計部に聞いてください」と答えるしかないのが実情でした。
しかし、導入したシステムでは、たとえ新入社員であっても細かい製品の仕様を画面上で確認することが出来ます。仕様をその場で確認できますから、問い合わせ対応などに、大きな効果を生んでいます。
まあ、導入した当初は現場からシステムへの不信感の声もあったのですが。
― それは、どういうことでしょうか?
カタログに載らないような仕様も含めてすべてをシステム上に掲載していますから、営業からは、「どうしてこの製品では、この仕様がOKなのか」というような“苦情”が出たりしたわけです。ただ、運用を始めて3年、4年と経つうちに前向きなスタンスに変わりました。今では信頼度が上がり、みんながこのシステムを当たり前に使いこなすようになっています。
製品を全部コンフィグレータ(CPQ)に入れたことで、私たち自身も、ようやく自社製品の“全貌”を把握することが可能になりました。その結果、逆に設計サイドがルールと違う型式を登録して来たりすると、それを指摘できるようになりました。むろん、新製品には今までと違う条件などがつきものなのですが、昔のようなイレギュラーな項目は、ほとんどなくなりました。これも、導入前には考えもしなかった効果といえます。
― 今後の課題、目標を教えてください。
課題はたくさんあります。いくつか挙げれば、一つは体系が複雑なこともあって、価格の情報が載せられていないこと。価格にもバリエーションが多く、どこまで洗い出しが可能か現在模索中です。
ぜひ実現したいのは、我々の直接のお客さまである販売代理店にも、このシステムを導入することです。そうすれば、当社と販売代理店、さらにはその先とも、受発注を中心に、よりスムーズなやり取りができるようになるはずです。
ここまでくるのには苦労もしましたし、改善点も多い。でも、以前の混沌状況からすれば、まさに「夢のよう」です。
― ありがとうございます。最後に、当社へのご意見・ご要望をお聞かせください。
非常に複雑な仕事から解放されたこともあり、「仕様問題」に関わる時間は減りました。基本的な内容を含め、いつもこちらの質問にていねいに対応してくれるのには、感謝しています。今後も、きめ細かなフォローをお願いしたいと思います。